目黒通りと Bob James

Bob James をかけながら目黒通りを流す昼下がり

NDロードスター

マツダ・ロードスターに興味を持った。”運転を楽しむ”という目的のためだけに作られたようなクルマである。ドライバーが運転操作をするために必要なだけの居住空間を持ち、短いホイールベースに駆動方式はFR、そしてマニュアル・トランスミッション。エンジンは、1.5L自然吸気1本(幌タイプ)と潔い。これだと物足りない感じもするが、スペックは132PS、152Nmと車重1,000kg前後のボディには十分である。サスペンション形式は、前:ダブルウィッシュボーン、後:マルチリンク。こうしたスペック一つ一つから、理想の走りを予感させる。さらに幌を開ければフルオープンになる。風を友達に走れば、最高の気持ちよさが体感できる、というわけだ。ネットにあふれる試乗記や動画では、”とにかく気持ち良い”との評判が立っている。

ロードスターの走りを最もピュアに表現している990Sというモデルを試乗した。まず、乗り心地が良ことに驚いた。ハンドリングについては、前輪ダブルウィッシュボーンによって優れたものになっているか、というとそこまでは分からなかった。ただ、不自然な感触は無かった。マニュアルトランスミッションのノブがアイドリング中などに結構振動しているのが気になった。アクセルを踏み込んだときの加速感は、物足りなかった。絶対的には十分な加速ではあるのだが、トルク感が足りないのだ。なるほど、150Nmのトルクというのは、この程度なのか、と思った。幌は開けてオープンで走った。さらけ出されている、という感覚は意外と小さかったが、独特の高揚感がある。ある意味で常にテンションを上げている必要がある。人間には、時には殻の内側にいるという安心感が欲しい時もあるだろう。そうしたとき、布の幌を閉めただけだとやや心許ないかもしれない。

ロードスターには、RFというハードトップモデルがある。こちらは電動で開閉ができるハードトップルーフを持ち、閉めている時はクーペ、開ければオープンカー、となり、開放感と安心感を両方得られる。また、独特のCピラー造形を持ち、これが美しい。はじめは、幌トップの方がカッコよく、RFのデザインは中途半端だと思っていたのだが、見慣れると、これが非常に美しく感じられるようになってきた。実物はさらに美しい。パーソナルな移動ツールとして見た場合、ロードスターは、ややコンパクト過ぎると思っていた。絶対的なサイズ感として、もう少しだけ大きいほうがクルマとしてのデザインはまとまるように思う。ロードスターRFはこのコンパクトなサイズで美しさを表現できており、相当レベルの高いデザインではないだろうか。

そんなロードスターRFを試乗した。ロードスターRFは、2.0Lエンジンを積んでいる。自然吸気であるが、184PS、205Nmを発生する。990Sで感じたトルクの薄さがどこまで解消されているか、という点に興味があって試乗したのだが、まずはデザインの美しさに心を奪われてしまった。試乗したモデルは、テラコッタセレクションという特別仕様車で、赤茶のレザーシートを装備し、内装も美しいデザインだった。さて、加速時のトルク感は、幌よりは力強く、これならば許容できるが、しかしそれ以上ではない、というのが正直な感想である。カタログスペックなりのトルク感ということだろう。ただ、このRF、馬力は184PSある。回していけば、力強い加速が得られるのではないか。ということで、この時は、高速道路も試乗させてもらった。アクセルペダルを床まで踏んで見る。トルク感はそれなりだが、高回転まで淀みなく回って行く。ただ、ホンダVTECの高回転で炸裂するようなパワー感までは無かった。それよりも、速度を上げていくにしたがって高まる、室内の騒音が印象に残った。とにかく、うるさいのである。ロードスターRFのボディサイズ、車重を考えると仕方ないかもしれないが、高速道路長距離移動には向いていなそうである。これだけ室内がうるさいと、ボーズサウンドシステムなど、オーディオに凝る意味はあまり無いのではないかと思う。

というわけで、机上(PC上)の評判から、”とにかく気持ち良い”クルマ、という脳内評価を持って、試乗に望んだロードスターであったが、やはり実際に乗ってみた感触は、想像とは違っていた。しかしながら、ロードスターRFのデザインの美しさは、忘れられない。この小さなボディサイズ、幌よりは包まれ感のあるパーソナルな空間、気分次第ではオープンエアも楽しめる、十分な加速性能、幌よりも硬質な乗り味、もちろんハンドリングは折り紙付き。一度は、これは自分の求めているクルマでは無い、と思いかけたのだが、ふと惹かれている自分に気づく。つまり、ロードスターRFは、購入(候補)リストにとどまっているのである。

ロードスターRF